才能があるのだが一向に開花しない。
当方、幼少期からその片鱗を見せ運動、勉学、武道、芸術、あらゆる方面で周りからの期待を一身に受けてきたつもりであるが中年になった今でもその片鱗が片鱗のままなのであるからして実に奇妙なのである。
まぁおそらく遅咲きの人なのであろう。
お母さんだってこう言ってた、
『アナタハヤレバデキルンダカラ…』
兄とテレビゲームをやっていた時の事である。
我が家には”30分交代”なる規律があり、ゲームをしてない者は『ゲームをする者』のプレイを横で見物し、あーでもないこーでもないとチャチャを入れつつ『ゲームをする者』がむつかしいコンボなぞを決めた暁にはその雄姿を褒め、讃え、労い、喜びを分かち合わなければならなかった。
ドラクエ3。
着々と物語を進めていく兄に対し私はメタルスライムが高確率で出現するダンジョンを見つけてはひたすらレベル上げに勤しんでいた。その日の分の夏休みの宿題も終え優雅に麦茶をすすりながら。
そこへ近所に住む幼友達がピンポンを押して遊びに来たのである。
出迎えにいった兄はベスケという名のその男を引き連れゲーム部屋に戻ってきた。ジャイアンツの野球帽を被っている。
そして兄はレベル上げをしていた私にこう言い放ったのである。
『時間だ、交代しろ』
はぁ?
である。
私の計算ではまだ20分ほどしかたっておらず、その事を兄に抗議した。しかし、
『いいや。30分たったから交代だ。オマエ時計もろくに見れないのか?』
私は必死の思いでベスケに助けを求めた。
『おいベスケくん。11時10分から始めたから今11時30分くらいだからまだ20分しかたってないよね?』
すると野球帽のツバの部分を触りながら、
『11時10分からならもう30分たってるよ』
何のことはない今思えばベスケは兄買収されていただけの事であるが、
当時の私としてはなんとも言えない感じを覚えた。
鉛をみぞおちにそっと入れられたような。
そして突如として不安が訪れた。
…僕は本当に時計を見れているのか?
…僕の時計の見方は本当に正しいのだろうか?
今まで時計の見方を誰かにちゃんと教わったことがあったか? 彼らの言うとおりタイムオーバーなのではないか?
ニヤついた兄の横でベスケはあぐらをかき白眼を剥く練習をしている。
私はただただ判決を受け入れるしかなかった。
兄にコントローラーを渡し、
「今後気をつけるように」
と許された私は自決を余儀なくされた荒野の落武者よろしくその場にペタンと座り込み、力なくコウベを垂れ、毛羽立ったカーペットのシミをジッと見つめていた。
白眼のベスケを従え、着実にゲームを進めていく兄の高笑いを聞きながら。
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